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【これまでのまとめ】クリス・フルーム『サルブタモール問題』が決着!ツール・ド・フランス2018出場へ

2018年7月4日、UCI(国際自転車競技連合)は、クリス・フルームの「サルブタモール」問題について無実を表明。同時に、ツール・ド・フランス主催者であるASOもツールへの出場拒否を撤回した。自転車ロードレース界に、常につきまとう薬物問題。その中でも特に注目を集めた今回の「サルブタモール問題」について、始まりから決着まで、そのあらましをまとめた。

    クリス・フルームドーピング疑惑に決着
  1. 「サルブタモール問題」そもそもの始まりは
  2. 何故ここまで大問題になったのか
  3. ASOの強硬手段?クリス・フルームの出場拒否を通知
  4. 強硬手段に出たからこそのフルーム出場
  5. 根本的な問題が解決したわけではない

クリス・フルームのドーピング疑惑に決着

ツール・ド・フランスを主催する「アモリー・スポール・オルガニザシヨン(以下、ASO)」が、クリス・フルームのツール・ド・フランス2018への出場を拒否したという件について。
2018年7月2日、ユニオン・サイクリスト・インターナショナル(国際自転車競技連合、以下、UCI)は、運営する公式webサイトにて、「クリスフルームの抗ドーピング手続の閉鎖を確認した」ことを公表した。

ジロ・デ・イタリア終了後の2018年6月4日、フルームからUCIへ、サルブタモールに関するWADA(世界アンチ・ドーピング機構)による科学的な証拠、説明書類が追加提出された。UCI側はそれらの情報を、WADAや専門家らとともに精査。UCIは最終的に「今回の件はパフォーマンス向上目的の使用ではなかった」と結論付けたのだ。
つまり、疑惑に対する検討が終了し、本件についてはクリス・フルームは「ドーピングではない」との結論が出たことになる。

正式な決定・公表がなされたのは、6月28日。まさに、ツール・ド・フランス開催のわずか9日前だ。

【参考】UCI Official HP | クリストファー・フローム氏の抗ドーピング手続に関するUCI声明

1.「サルブタモール問題」そもそもの始まりは

事の発端は、2017年9月20日、ブエルタ・ア・エスパーニャ2017第18ステージにフルームの尿から、過剰な量(規定値1000ng/ml以上)の喘息症状を抑える薬物「サルブタモール」が検出されたことに始まる。

【サルブタモール】
世界中でもっともよく処方されている気管支拡張剤であり、吸入、経口の形で投薬される。吸入によって投与された場合、気管支平滑筋に直接効果をもたらし、速やかに気管支平滑筋を弛緩させる。
Wikipedia|サルブタモール

話をややこしくしているのが、この「サルブタモール」が禁止薬物ではなく、ただ単に「規定量が決められている薬」である点。

整理していくと、まずこの「サルブタモール」はWADAにより、禁止薬物の指定がされいる物質ではない。ただ、処方の時間や量について規定されているが、吸引タイプの薬に関しては、TUE(治療目的使用に係る除外措置の申請)の事前申請も不要な薬だ(フルームはもともと喘息持ちであるため、レースの都度、事前に申告している)。

そして、この規定量を超えても決して「ドーピング」というわけではなく「ルール上不利な数値が出ています」というもの。規定量を越えいれば、その検査数値について釈明する期間が与えられるのだ。言い換えれば「これは、ドーピング目的で使用してはいないということを証明してくださいね」という『グレー』な状況であった訳だ。また同時に、UCIアンチドーピング規約では、裁定が下されるまでの間のレース出場は正式に認められている。
そのため、「グレーな状態の選手(しかもトップ中のトップ選手)が、レースに出場しているのは如何なものか」と賛否両論、議論が巻き起こっていたということだ。

クリス・フルーム選手©Le TOUR de France | Best of 2017

2.何故ここまで大問題になったのか

加えて、この件がここまで問題視されたのは、単に規定上の側面だけではなく、この事実が2017年12月の中旬に「スキャンダル」として明るみになったことにも一因がある。フランスの新聞『ル・モンド』、英国の新聞『ザ・ガーディアン』によって「すっぱ抜かれた」ことにより、まるでチームスカイが不正を隠蔽していたかのような風潮になってしまったのだ。加えて、トニー・マルティン(ドイツ、カチューシャ・アルペシン)が、事件発覚後、自身のFacebookページ内で「私たちの信頼性を揺るがす事態」「明白なダブルスタンダード」とフルームやチームスカイに対する批判的なコメントを掲載し、さらなる炎上を見せることとなった。

なお、今回の様に「審議中」の案件については、公表する義務はなく、最終的に「黒」の処分が下された場合のみ、その公表が義務付けられている(当然と言えば当然だ)。
そのため、本来であれば、関連する運営機関内で、通常の手続きを経て処理されていれば、大した問題ではなかった出来事だ。にもかかわらず、発生と発覚のタイムラグや、他選手の声明、そして何より調査検討期間の長期化などにより、本格的な「問題」として取りざたされるようになってしまった。

3.ASOが強硬手段を?クリス・フルームの出場拒否を通知

とはいえ、フルームがルールで定められた「規定数値」を超える容量の薬を摂取していたということに変わりはない。最終的には、その「釈明」に対してUCIがどの様な裁定を下すかによって、フルームのツール出場、加えて、ブエルタ以降の彼の戦歴である、世界選手権個人タイムトライアル銅メダル、ブエルタの優勝、そしてジロ・デ・イタリアのあの伝説的勝利も剥奪される可能性もあった。
繰り返しになるが、つい先日までは、フルームはあくまでまだ「グレー」の状態だったのだ。

レースの主催者であるASOからすれば、過去のランス・アームストロングの事件をはじめとする格式あるレースへの汚点や疑念を、これ以上増やしたくないと思うのは当然のことだろう。そもそも、自転車競技に関しては、昔から選手の薬物違反が頻発し、競技全体に対する不信感は未だ根強い問題とも言える。(ツールにおいては、1996年から2005年までの10年間において100%白だと言い切れる選手は一人もいない)

確かに、フルームの「白」が確定していない状況での各レースへの出場は、他選手への士気や、業界へのイメージに対しても少なからずマイナスの影響がある。UCIやASOもフルームへの各レースへの出場自粛を推奨していたし、世論も「出場すべきではない」という意見が多かった様だ。

そんな状況の中、ASOは、レース規約28項「レース主催者は、特定の選手の出場がそのイベントのイメージを主催者のレース理念を損ねる場合は出場を拒否できる」に乗っ取り、チームスカイへクリス・フルームの出場拒否を通達したのだ。(2018年7月1日フランスの大手新聞「ル・モンド電子版」が発表。通達の正式な日時は不明)

フルームからすれば、なぜこのタイミングで、だ。フルームはこの時点では、規定上、レース出場が認められている。にもかかわらず、レース開催まで少なくとも一ヶ月を切った、しかもツール優勝最多記録(ミゲル・インドゥライン5回)に並ぶかどうか、かつ、4連続グランツール優勝が実現するかという、歴史的にも非常に重要なレースの直前というタイミングでの主催者側からの参加の拒否。これはフルームファンでなくとも、少なからず憤りを覚えたのではないだろうか。
しかし、これは結果だけを見ればフルームにとっても非常に良い出来事となった。

4.強硬手段に出たからこそのフルーム出場

ASOの開催委員長クリスティアン・プリュドム氏は、事件発覚の12月以降、「審査が何ヶ月も長々と続かずに、UCIがの早い段階で結論を出すよう願っている」「我々は明確な回答を必要としているだけだ」と、早く白か黒かの結論を出すことを求めてきた。しかも、今回の拒否騒動に関しても「UCIがツール開幕前に問題を解決できていないことがそもそもの問題」とUCIを批判してもいる。終始、あくまでも問題の早期解決を望んでいる姿勢だ。

フランス新聞「ル・モンド」によれば、チームスカイはASOからの通達をうけて、フランスオリンピック委員会(以下、CNOSF)に提訴。7月4日にその判断が下される予定だったが、期日前の6月28日にUCIは先に、「ドーピングではない」との発表を行った。
斜に見てしまえば、CAS(スポーツ仲裁裁判所)での審議による結論、つまり半年以上も抱えていた問題を、他機関の判断により結論づけられることを良く思わないUCIが「ASOの強硬手段に背中を押される形で、無理矢理に結論を出した」と取れなくもない。

しかし、UCIにおいては、自業自得と言わざるを得ない(もちろん我々にはわからない諸事情はあったのだろうが)。
ツール開催、一ヶ月前となった6月1日、UCI会長ダヴィド・ラパルティアン氏は「ツール開幕前に解決して欲しいと願っているが、〜きっとそうはいかないだろうと思っている」などと、解決を諦めているかのようなコメントを出したのだ。
おそらく、このコメントを受けた時点で、ASO、そしてチームスカイもまた、今回のこのシナリオを想定していたと推察できる。

現にこのコメントの3日後、フルームはUCIに対し、WADA監修の「サルブタモール」に関する追加書類を提出。ASOは、6月の早い段階でUCIに今回のフルームの拒否表明の予告を書面で送っていたというのだ(フランス日刊スポーツ新聞「レキップ」より)。そして、チームスカイは拒否表明の段階でも、ツールの出場選手登録を、出場チームの中で唯一、完了させていなかったし、拒否表明がされると間髪入れず、CNOSFに提訴している。
終わってみれば、まるで、拒否表明とCNOSFへの提訴により、UCIが折れることを予見していたかの様な動きとも取れなくはない。

そして、それはつまり、UCIがもはや最終段階まで迫られていたにもかかわらず、ASOによる最後の賽を投げられるまで決断できなかったということ。

それによって、この問題が「後味の悪い幕引き」「どこかしこりの残る決断」となってしまったことはもはや明白だ。結果、単なる一選手の疑惑云々の話ではなく、現在の規定への疑義やUCIへの信頼、自転車ロードバイク界への信用に遺恨を残したと言っても過言ではない。

5.根本的な問題が解決したわけではない

今回のUCIの裁定により、ASOはフルームの出場拒否を撤回。フルームは晴れて「無実」の証明を得て、堂々とツール・ド・フランス5連覇に挑むことができる様になった。

しかし、問題は山積したままだ。むしろ増えたと言ってもいいかもしれない。「UCIはただ単にASOの表明に流される形で、結論を出しただけではないのか」、「過去同様の事例で出場が拒否されてしまった件とどう違うのか」そんな疑問符が残り、どうもスッキリしない印象だ。
そもそもの「審議中の選手はレースへの出場ができない様にすべきでないか」という意見も出てきている。ただ、それは同時に“「黒」だと確定していない選手”を、まるで容疑者の様に矢面に立たせることとなる。そして今回の様に半年以上もの間、審議が続き、その間ずっと出場停止となれば選手生命にも関わってくる。現時点では、これらの問題が解決したとは考えづらい。むしろ問題が浮き彫りになっただけではないだろうか。今後もまだまだ議論は続きそうだ。