旅ログ

諸行無常の響きあり?歴史香る「いろは坂」へのロードバイク旅

全国各地の様々な「道とロードバイクとの出会い」をお伝えする『旅ログ』。今回は名坂として有名な「日光いろは坂」を紹介する。国道121号線側の「日光並木道」あたりから、「日光東照宮」を抜け国道120号線をさらに上昇、そして海抜1000mを超える「いろは坂」までのおおよそ30kmほどの道のりだ。

  1. 杉並木が出迎えてくれる日光の道
  2. 日光市街地そして東照宮へ
  3. 国道120号線 清滝バイパス道
  4. いざ!いろはにほへとちりぬるを…
  5. ついに感動のあのシーンに
  6. 中禅寺湖に癒され帰路へ
  7. 第一いろは坂は要注意
  8. ロードバイクの聖地と呼ぶにふさわしい場所

1.杉並木が出迎えてくれる日光の道

宇都宮側から日光へ向かう場合、ほとんどが国道119号線、もしくは121号線のいずれかを通る。この道はご存知世界遺産に登録される「日光杉並木」だ。脇に立てられた電柱よりもはるかに高い杉が日光に訪れたロードバイク乗りを悠然と出迎えてくれる。今回編集部では宇都宮駅からJR日光線沿いの121号線側からのルートをとおり「いろは坂」へ向かった。

並木道入り口

県道264号線から、交差点「平成橋東」を右折し、国道121号線である例幣使街道へと入れば、すぐにちらほらと大きな杉並木が目につく。本当に”電柱よりも高い”のだと、日光に来た実感し、感動が少しずつ湧いて来た。例幣使街道に入り4kmほど走ったところで、突然、まるでトンネルのような並木道が現れた。「並木道!」思わず声をあげ、ケイデンスが上がる。
「日光市」の看板と「並木寄進碑」を横目に、その自然の暗がりの中へと突き進んでいく。気温がわずかに下がる。天高く育った杉並木は、日光を遮り、薄暗く、春先では少し肌寒いほどだ。

2.日光市街地そして東照宮へ

国道121号線は、小倉町付近で191号線へと名称を変え日光市街地へと続く。並木道もそうだが、日光は基本的に大きな谷のような地形に切り開かれた町であるため、終始緩やかな坂道が続く。しかし、これが地味に足にくるのだ。(前日、池袋ー宇都野宮を走って来たため、そもそも足が重たい)そして、市街地中心に入るとその斜度は、さらに牙を剥き始める。

日光駅を過ぎると、一気に斜度が上がり、それまで徐々に削られて来た足にさらに堪える。「後半、斜度が上がる」というのは精神的にもダメージが大きい。

市街地の坂を登りきると、「新橋」と呼ばれる観光名所があるT字路を左へ。道は国道120号線へとさらに名称を変える。さらにその先には、徳川家康の御神をお祀りする、かの「日光東照宮」に辿り着く。純粋に「道」を求めるロードバイク乗りであれば一瞥し、そのまま走り去るところだろうが、編集部は結構ミーハーだ。せっかく日光に来たのだからと立ち寄った。綺麗に舗装された表参道の道を、クリートのカチカチ音を響かせながら奥へ進み、日本の歴史の一部に触れた。

3.国道120号線 清滝バイパス道

東照宮を過ぎれば、すぐに「中禅寺湖17km」の看板が見えてきた。重量級の私にとっては、クライムルートにおいて残りの距離がわかるのはありがたい。しかも、120号線は東照宮を超えてしまえば「いろは坂」まではおおよそ平坦に近かったため、かなり足を休めることができた。
また、ある程度登ってきているため、山間特有の、澄んだ空気とほのかに香る木々の香りが前日の150km走破の疲れを癒してくれた。
なお途中、120号線からバイパス道に入る接続部分では、走行に注意が必要だ。途中にコンビニがあったため、ピットイン。決戦直前の最後の小休止をとった。

4.いざ!いろはにほへとちりぬるを…

バイパスを抜けると、それまでの街並みが完全に途切れた。本格的なクライム区間だ。人工物は一気に減り、遠くに霞む男体山が出迎えてくれる。
普段から走り込んでいるロードバイク乗りからすれば大したことはないだろうが、月に1、2回の頻度で乗っている方であれば、いろは坂までの道のりもかなりハードに感じるだろう。かくいう編集部も直前に小休止したにもかかわらず、「前日の疲れが」という言い訳をインコのように繰り返す…。すでに這々の体だ。最後のカーブを曲がり、公衆トイレにたどり着けば、静かにそそり立つ男体山が、今や遅しと待ってくれているかのようだった。

いろは坂は時計回りだ。意外と知られていないらしいが、いろは坂は、”第一いろは坂”が「下り」、”第二いろは坂”が「登り」とルートが分けられており、いずれも一方通行だ。つまり一般的に自転車界で言う「いろは坂」は「第二いろは坂」ということになる。斜度がきつく、道幅も広くない道を考慮して増設して第二が作られたのだろう。その分「斜度も優しくなっているはず」と甘い考えがよぎったのが間違いだった。
いろは坂のおおよその距離が7.1km、高低差は402m、平均斜度5.7%。つづら折りの部分などは、6〜8%の斜度でスイッチバックが連続する「名坂」の名にふさわしい坂道だ。ただ、つづら折りの直線が短いため次の折り返しがすぐ見えるという安心感と、加えて、カーブに「い」から「ね」までの20の「仮名」がふってあることが精神的な支えになった。ただ、「を」まで数えたあと、次から何なのか分からなかったため、あといくつなのかも把握できなくなるという事態に…(後から考えれば、引き算をすれば良いだけなのだが)。やはり「クライムするときは何も考えない」が一番だと実感した。

いろは坂豆知識

覚えておくと便利かも。いろは歌

いろは歌、上に書いた通り、20のカーブにそれぞれ仮名が振ってある。実はちゃんとした文章になっており、意外と覚えるのは難しくない。いろは坂を上る機会があれば覚えておくのも良いだろう。

色は匂へど 散りぬるを (いろはにほへと ちりぬるを)
我が世誰そ 常ならむ (わかよたれそ つねんらむ)
有為の奥山 今日越えて (うゐのおくやま けふこえて)
浅き夢見じ 酔ひもせず (あさきゆめみし ゑひもせす)

 

いろは歌の意味

また、この歌のもつ意味は皆さんご存知だろうか。筆者は文章になっていることすら知らなかったが、文学部出身のBARAに「ちゃんと意味があるよ」と教えてもらったので少し調べてみた。

いろは歌(いろはうた)とは、すべての仮名を重複させずに使って作られた誦文(ずもん)のこと。七五調の形式となっている。
wikipedia|いろは歌

誦文(ずもん)とは、まじないの文句・呪文と言う意味で、他にも多くの誦文があるそう。もちろんいろは歌も、多分にもれずしっかりと意味のある誦文になっている。

色は匂へど 散りぬるを (匂いたつような色の花も散ってしまう)
我が世誰そ 常ならむ (この世で誰が不変でいられよう)
有為の奥山 今日越えて (いま現世を超越し)
浅き夢見じ 酔ひもせず (はかない夢をみたり、酔いにふけったりすまい)


加えて、それぞれの行が「涅槃経」の中の無常偈(むじょうげ)を表現しているという。

諸行無常(しょぎょうむじょう)
是生滅法(ぜしょうめっぽう)
生滅滅已(しょうめつめつい)
寂滅為楽(じゃくめついらく)


ここまでくるともはやジャンルが違ってくる気がするが、道の歴史や背景を知っておけば、そのライドの深みが増すのは確かだと思う。旅先で出会った地名に込められた、由来や意味を紐解きながら走るのも楽しいかもしれない。

最後のカーブである「ね」の3つ手前「れ」のカーブには『黒髪平』という展望台があった。下調べでは見落としていただが、なかなかの絶景だ。あと少しのところで止まると言うのも口惜しい気がするが、ゴールである明智平からの景色とは逆の風景を望むことができるため、立ち寄ってみても損はないだろう。また、よく記念撮影が行われている「いろは坂 1,173M」の表記もこの場所にある。

5.ついに感動のあのシーンに

きつい坂を登りきると見えてくる、赤屋根の明智平パノラマレストハウス。そう、”今日の山岳ラインがある場所”だ(何を言ってるのかわらからない人は「弱虫ペダル39巻」を読めばわかる)。決して熱狂的な”弱ぺ”ファンというわけではないが、それでも「聖地巡礼」というものはやはり楽しくなる。漫画でも映画でもドラマでも、舞台となった実際の場所を訪れ、登場人物やシーンに想いを馳せ、感慨に耽るのも悪くない。特に自分の足のみで、自力でその場所まで訪れたのだから、その感動もひとしおだ。そう言った楽しみ方も、ロードバイクの楽しみ方の一つではないだろうか。

(右)明智平での写真を撮り忘れていたので、手前の絶景ポイントからの一枚

6.中禅寺湖に癒され帰路へ

明智平を出てすぐのスイッチバックからすぐの明智第二トンネルを登り切れば、(正直に言えば、この時「登りは明智平で終わりじゃないのかよ…」と愚痴りそうになったが)、「二荒橋前」のT字路、中禅寺湖の入り口だ。大きな鳥居が出迎える中禅寺湖は、観光地としては小規模ではあるが、その分、ゆったりと散策できた。いろは坂が今回の目的でもあったため、あまり長居せず、桟橋の散策と華厳の滝の見学のみにとどめた。それでも、存分に中禅寺湖のパワーをもらって帰路についた。なお、もし「いろは坂」だけでは満足できない猛者は、中禅寺湖の先に「金精峠」というさらなる峠が待ち受けているので、チャレンジするのも良いだろう。

7.第一いろは坂は要注意

写真を見ていただければわかると思うが、第一いろは坂は日本の中でも有数のつづら折りの場所だ。なぜこんな場所に道を作ったのか不思議に思う程に、かなりの急斜面につづらが展開されていた。そのため道幅が狭い上に、斜度もきつく、8〜10%もの急坂がつづく。帰りのつづら折りはぜひ安全運転で走行してもらいたい。

8.ロードバイクの聖地と呼ぶにふさわしい場所

いろは坂をメインに旅ログを書かせていただいたが、やはりその魅力は、いろは坂に至るその行程をふくめたものだ。当編集部はまだまだ経験の少ない小さなロードバイク乗り集団ではあるが、関東圏のロードバイクの名所はおおよそ巡っている。その中でも日光はロードバイク乗りにとって最も魅力的な場所の一つだと感じた。杉並木道の木漏れ日、美しく整備された日光市街地、東照宮へ向かう川沿いの道、男体山が見守る山間部のクライム…。ロードバイクの良いとこばかりを詰め込んだ、先の表現とはまた別の「ロードバイク聖地」と呼んでも過言ではないと思う。いろは坂は、確かに、数値にしてしまえば他の山や坂と比べても、大したものとは言い難いかもしれない。しかしそれ以上に、そこに辿り着くまでの「道」や「街」がロードバイク乗りを存分に楽しませてくれる、そんな、本当に「旅」らしいライドが楽しめるエリアだ。

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日光

日光はまさに名所の密集地だ。鬼怒川温泉をはじめ、世界遺産「日光東照宮」、落差97mの大瀑布「華厳の滝」、戦前から残る歴史ある「金谷ホテル」、ロードバイク目線でも、かの有名な「いろは坂」、男体山の麓「中禅寺湖」、戦場ヶ原の2kmにも及ぶ平坦直線、女峰山の「霧降高原道路」など枚挙に暇がない。どんなロードバイク旅の期待にも答えてくれるであろう全国屈指のロードバイクエリアだ。